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−空中都市マチュピチュを旅して−


  8月末、ブラジルはカンビーナス市で開かれた「世界同朋大会」を終えて、この機会にと、ペルー観光に参加した。世界文化遺産ナスカの地上絵の雄大さと神秘さに驚かされたが、本来目指したのはインカ帝国の都クスコ、そしてマチュピチュの空中都市の遺跡観光である。

 いまから750年前、インカ帝国がスペインに征服される前3世紀の間、ここクスコを中心にインカ文明が花開いた。海抜3400mの高地に位置するこの町では、数段の石段を登るだけでも息切れをする。歳のせいかと情けなくなったが、どうやらそうではないらしい。若者の表情も苦しげである。目には見えない空気の希薄さという非日常の世界は不気味であり、高山病への不安が飲酒、入浴、睡眠などの行動に制約を与える。  早朝4時起床。6時濃紺のディーゼルカーに乗り込む。数回のスイッチバックを繰り返して急坂を喘ぎ喘ぎ登っていく。途中、赤茶けた山肌に土ブロックの家がへばり付くように点在する。日本の春に咲くエニシダが、満開の花をつけて咲く様子に、地球の南北の違いを実感する。季節はまさに早春。この鉄道はまことにオドロ驚しい。数百メートルの高さで垂直に切り立つ岩山を見上げると、今にも落ちそうに引っ掛った岩が見える。左側には軟玉色の急流ウルバンバ河だ。アールのきついレールは、車輪とのきしみでまるで悲鳴の響きだ。元JR職員のS氏が「全く考えられんような危険な鉄道や、帰りは絶対乗りたくないもんや」と吐き捨てるようにつぶやいた。3時間半、同席したKさんとの会話が弾み、スリリングな時も短く終わった感。ゾロゾロと降り立つ乗客は、一様にホッとした表情。終着駅アグアス・カリエンテスは、深い谷沿いの駅。谷川を渡りバス停まで200m程歩く。観光客でごった返す中、2台の中型バスに乗り込む。バスはつづら折りの狭い山道を土ぼこりを上げ低ギアのまま登っていく。車窓から異様に突き出た山ワイナピチュの気高い美しさに目を奪われる。30分強でマチュピチュ山頂近くの終点。ここからは徒歩。快晴、そして気温は25℃くらいあるだろうか。上着と荷物を5ソル(約160円)で預ける。10時半汗をかきかき山頂を目指す。やがて天上の折り重なる台地が目に入る。インカの空中都市と言われる海抜2400mの断崖絶壁の山頂にひらかれた多くの謎を秘めた街である。

 1911年ハイラム・ビンガムによって発見され、世界に公開されたこの遺跡は、驚くべき精巧さで築き上げられた石段が層をなす高みの都市。500人から1000人程の人々が生活していたといわれる一群の住居址。今も清らかな水を流し続ける切石を畳んだ水汲み場。水浴場の背後に半円の大塔がそびえる。要塞、宮殿、陵墓であろうか、梯形の小窓が二つある端麗なその姿は、遺跡中もっとも美しい。遺跡の中で唯一の2階建て建物は、王女の宮殿と呼ばれている。太陽を崇めたインカの人々の祈りの場、本神殿は三方を石壁で囲い、その正面に4.5m程の角石が据えられている。高い位置から目に入ってくる大きな処刑の石。インカの文化に文字はなかったといわれる。各々の場所を記した記録も皆無である。したがってインカの政治、経済、宗教の様は定かではないが、この集落の住民一人でも飢えることのない共同体組織が厳しく守られてきた。だからそこでの違法行為は、死に直結したといわれる。

 見張り小屋までは急な石段を登る。もう限界の心肺と足の動きにくじけそうになりつつやっとたどり着いた。しばし石の上に座って呼吸を整える。山腹から吹き上げる風が心地よい。立ち上がって集落全体を見渡す。その風景は絵葉書でよく目にするまさしくマチュピチュの景観。太古を引き継ぐ清澄な空気と紺碧の空、濃い青緑の山々の美しい稜線、白く映える遺跡群の石、その石を柔らかく包む大地に根を張る青草。それぞれが快晴の陽に映えて、見事なコントラストの美を表現する。まさに宮崎駿の映画「天空のラピュタ」の世界である。ここの魅力は景色の美しさだけではない。インカの人々がどこから来て、なぜここに住み着いたのか。その生活ぶり全てが謎に包まれている。様々な想像をかきたてるその神秘性にある。一台パノラマを先程の石に腰掛ながら一人静かに眺めると、胸に込み上げてくるものがあった。

 帰り道、あの涙の意味は何かと考えた。この素敵な地に出会えた喜び、感動の大地に送り出してくれた家族への感謝と申し訳なさ、踏みつけられた大地から、大いなるいのちの世界のはたらに呼応するかのように、鮮やかにひっそりと咲いていたタンポポの姿を見たからであろうか。電話でそのことを家族に話したら、「ゴリラの目にも涙か」とは言われはしたが、機会があれば、いや機会をつくって是非家族に行かせたいと思う。

                         (2002年10月 住職ゴリラ)

 

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