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「人のわろきことは、よくよくみゆるなり。わがみのわろきことは、おぼえさるものない。」
―蓮如上人御一代記聞書―


 型にはまったように実直な職人気質の父と、父のいいなりにしか動かない母親の下から、十六歳の高校一年生の少女が家出した。彼女は家出少女を狙う暴力団組員の網にその日のうちにかかってしまった。二十五歳の組員Kが、雨の激しく降る中を車から降り、ずぶぬれになって鳴く捨て犬を優しく抱きしめた時、少女は初めて心開いて語れる男の大人に出会ったと思った。
 中学二年生の時、少女はつらいいじめにあった。担任に訴えたが無視されてしまった。中三になった頃、大切な友達がいじめにあい、その苦境を思い必死に担任に助けを求めたが、その時もうやむやにされてしまった。
 高校の入学式の日、真新しい制服にあこがれのルーズソックスで家を出ようとした時、父親から怒りをかった。髪をつかまれ、押し倒されてソックスを脱がされ、ズタズタにハサミで切られてしまった。律儀で融通の利かない父親には、娘のルーズソックスが不真面目さの象徴のように映って許せなかった。
 高校生活も細かい校則と厳しい規制、意欲のない教師の授業にうんざりしている時、再び上級生からのいじめにあった。この教師ならと頼っていじめの事実を語ったのに、その先生はしっかり対応してくれなかった。
 彼女の中に、自分の出会う限られた大人たち、しかも親であり教師である大人たちへの失望は急速にふくらんでいった。そして自分の置かれている家庭と学校という境涯が息の詰まる苦痛の場所でしかありえなかった。
 Kとの一ヶ月間の生活で、持ち出したお金は使い果たしてしまった。再び自宅からお金を持ち出そうと、一ヶ月ぶりに電話を入れた。母親が車で迎えに来るその間に家に入り込んだ。父親の不在を確かめたのに、早く帰った父親に捕まってしまった。
 警察署の面会所で初めて会った彼女は、とても十六歳には見えなかった。二七・八歳のすさんだ大人の女であった。一回目、二回目、彼女は口を開こうとはしなかった。信頼できる大人など彼女には存在しなかった。三回目の面接、彼女はその日家出に至るいきさつを一気に話してくれた。四回目、家での生活は約一ヶ月を経過していた。家庭での様子を尋ねる私に、彼女は「お父さん、お母さんは今でも私をKのもとに行かせるような言い方しかしない。」と言った。その頃彼女は、次第に十六歳の少女の顔に戻りつつあったが、まだその顔には深いかげりが見えた。
 五回目の面接には母親を同伴させた。彼女に両親への思いの丈を話させ、親の姿勢への変化を求めた。
 六回目は警察からの電話でおもむいた。そこには両親と本人が待っていた。彼女の顔が明るい、すっかり憑き物が落ちたかのような十六歳の顔があった。
 昨夜十時過ぎ、母親は夫の前で「私と子どもたちをこの家から出してください。」と思い余って切り出した。驚く夫に、母親は彼女の両親への悲痛な叫びを話した。その夫婦の厳しいやり取りをふすまの陰で聞いていた小学五年生の弟が飛び出してきた。そして二人の間に割って入り「お父さん、お母さんお願いだからいつまでも僕のお父さんとお母さんであって下さい。」と訴えた。唖然とする父親は、子どもと妻の言葉から自分の立場に固執し妻子にこれほどの苦痛を味あわせていたことを初めて知った。「私がいたりませんでした。そのために家族につらい思いをさせていました。」そのように深く頭を下げるお父さんの顔も、そしてうれしそうに見つめる彼女とお母さんの顔も優しさに輝いていた。

(2005年7月 住職ゴリラ)

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